心理学でリーディングと聞くと「コールド・リーディング」をイメージする人が多いかもしれない。ところが、リーディングにはいくつか種類がある。
今回はテレビのパフォーマンスでもよく使われる「パラメータ・リーディング」について、パフォーマンス動画を交えて見ていくことにする。
パラメータ・リーディングとは
瞳孔の変化や不覚筋動と呼ばれる自分では制御できないわずかな筋肉(表情筋)の動きから相手の記憶または意識下に格納されている特定の数字を外に引きずり出す技術のこという。
過去、パラメータ・リーディングがパフォーマンスで使われてきた事例として、誕生日やボーイフレンドの年齢、特定の人物しか知るはずのない携帯電話の番号や、自分しか知りえない銀行口座の暗証番号などが取り上げられてきた。
日本ではメンタリストのDaiGo氏や中国出身のマインド・ハッカーのトニー・ジャン氏などをプロデュースする眉村氏とそのパフォーマーのトニー氏がテレビでその技術を披露していたことが記憶に新しいかもしれない。
そこで、まずはパラメータ・リーディングという技術がどういうリーディングテクニックなのか、以下の4つの動画からその様子をご覧になってみてほしい。
この記事に埋め込まれている動画は、パラメータ・リーディングの内容に再生ポイントをあわせています。再生を始めたところからそのままご覧ください。
① 任意に選ばれたサイコロの目を読み解く / 眉村神也(17:20~22:00)
② 携帯電話の番号11桁を読み解く / トニー・ジャン(3:06~LAST)
眉村氏はサイコロを使い、トニー氏は携帯電話の番号を使っているが、当人の頭の中にしかない数字を読み解くという意味では理屈は同じだ。ちなみに、眉村氏のパフォーマンス(2回目の「1」的中)は、リーディングではなく「誘導」である。
カメラが捉えている映像の範囲内での解説にはなるが、映像で確認できるとこだけ簡単に触れておくことにしよう。
眉村氏
の後、
眉村氏
と言いはじめて、1秒ほど無言(サイレント・フォーカス=注意を引く)で人差し指を立ててから、
眉村氏
と続けていることに目を止めてもらいたい。そして、「1」と言った後にも少し間を空け、その後の2・3・4・5・6には一切間を空けず、「1」とそれ以外の数字を区切るかのような言い方をしているのだが、普通の人はこれをただ言葉を繋げるための会話の中でできた”偶然の間“と思い、気にも止めないだろう。
この一瞬の間()をかませた話し方は、実は女性が無意識に「1」をイメージしやすくなるために眉村氏が意図的に作り出している意味のある”間”なのだ。
この場合、「1」の後にだけ一瞬の間を挟み、その後は流すことで他の数字よりも「1」だけが際立って聞こえ、潜在意識に書き込まれやすくなる。その結果、無意識に直感で数字を決めようとするとその数字を選びやすくなり、当人はこの選択を自分の意思によるものと錯覚する。
さらに、説明していると思わせるジェスチャーの中でたびたび人差し指を立てて「1」を暗示し、女性の潜在意識に「1」を刷り込もうとしている様子も確認できる。
当然、女性は自分の意思で「1」を選んだと思い込んでいるため、「君は自分の意思ではなく、眉村氏の誘導で「1」を選んでしまったんだよ」と言ったところで普通は理解できる話でもなく、それどころか自分の意思を他人が操作するなんてことは”神でも不可能“ぐらいに思っているかもしれない。
なぜなら、ほとんどの人は(「催眠」「誘導」「暗示」などの)知識がなく、意味がないように見えて大有りなジェスチャーやしぐさに隠されている本当の意味とその行動から受けてしまう影響についてほぼ無知だからである。
トニー氏はこれをゲットナンバーと名付けているが、欧米では相手が心や頭にイメージした数字を読み解くリーディングテクニックを「パラメータ・リーディング」と呼んでいる。
日本ではこういった技術をパフォーマンスにできる人が少ないため、なかなかメディアでクローズアップされないが、海外では「パラメータ・リーディング」をいち早くパフォーマンスに持ち込んでいた人物がいた。
アイルランド出身のメンタルパフォーマー、ディスカバリーチャンネル(DECEPTION with Keith Barry)にも登場した「Keith Barry/キース・バリー」がそのひとりである。
③ 通りすがりに声をかけた人の銀行口座の暗証番号を読み解く / Keith Barry(0:00~5:22)
④ 初恋をした年齢を読み解く(英語) / Keith Barry(18:20~21:08)
このすぐ上の4本目の動画(初恋をした年齢を読み解く/Keith Barry)にパラメータ・リーディングの大まかな解説が少し入っている(英語字幕表示可能)ので、英語がわかる方は参考にしてみてもいいかもしれない。
また、対象者がリアクションを見せたときに普通ならそれに合わせてパフォーマーも多少表情を崩すものだが、キースに至っては口元はわずかに変化しても眼だけはまったく崩さず相手の目を見続けている。
結果が確定した後のリアクションの後に出る変化すらも見逃さない、すごい集中力である。
瞳孔観察
今回の4つの動画にはひとつの共通点が確認できる。

「目を見て…(17:58~18:00)」

「僕の目を見て!(4:03 / 4:16)」

「Okay, Look at me…(19:42)」
3人とも、対象者が一瞬でも目を反らすと目を見るよう注意を流しているのが確認できるだろう。
動画を見ると、パラメータ・リーディングは相手の目の動きを追っていると思うかもしれないが、実際は目の中で起こる「瞳孔の変化」をかなり注意深く観察している。
これだけの近距離にいれば目の動きぐらいはすぐにわかるが、瞳孔の変化はどれだけ近くにいようが視線が反れている状態ではほとんど観察不可能できない 。
加えて、虹彩 ( 瞳孔の周囲を覆う色のついた部分 ) がダークブラウンのように暗い私たち日本人を含む東洋人は、欧米人に比べて瞳孔の変化を読むのはかなり困難なため、補足情報として瞳孔以外の表情筋やカラダの動き、筋肉の抵抗、呼吸、声のトーンなどから情報を補填し、総合的に判断する。
瞳孔と感情
瞳孔が拡張する理由として光の調整以外に 「強い感情」 「強い関心」「性的興奮」 などが挙げられるが、ディスカバリーチャンネルのKeith Barry(キース・バリー)のケースではわざと女性の関心が強くなる(変化を読み取りやすい)異性や恋愛に関する内容をテーマにしていると思われる。
また、瞳孔の拡張と収縮は自律神経系が担っているため、自分の意思で操作することはできない。よって、瞳孔の変化を確認できたときは確定材料に限りなく近づける手掛かりになるが、瞳孔からの情報が不足しているときや結果を確定するに情報が足りていないときはマッスル・リーディング(不覚筋動)や微表情(表情分析)、ボディランゲージなどから情報を補填することになる。
「不覚筋道」と呼ばれる自分では制御できない領域で起こる筋肉の微妙な動きを、相手の身体に触れながら読み取るリーディングテクニックのひとつ。
3つ目の動画に通りすがりの男性の口座の暗証番号を当てる動画を貼ったが、そこでキースは男性の手首を握ったり、ときおり喉に触れたり肩に手をかけたりしているのが確認できただろう。
良ければ、ちょっと手首を握らせてください…(2:21)
キース・バリー
相手の体に触れて、筋肉の微妙な動きから相手を読み解く、これがマッスル・リーディングである。
ところが、それ以外の動画では3人とも対象者の体には一切触れていない。相手の体に一切触れずに目視だけで筋肉のわずかな変化を読み取るテクニックはノーコンタクト・マインド・リーディングという。
頭の天辺からつま先まで、相手の体のすべてにあらわれる筋肉の変化(表情筋)や体の動き(抵抗)、発汗、呼吸、声のトーン、ボディランゲージ、言葉の詰まりや質問をしてから返答までのコンマ数秒の間隔のズレなどを目視と聴感覚だけで読み取る極めて難易度の高い上級者向けの高等テクニック。
マッスル・リーディングは相手の体に触れることで筋肉の動きを読み取るのに対し、ノーコンタクト・マインド・リーディングは目視と聴感覚だけで読み取るため、ちょっとやそっとの知識と経験で実践しようとしてもまず不可能である。
あらゆる知識を複合し、潜在意識下で表面化する人間の特性を総合的に判断する能力と場数を踏んだ経験に加え、人並み外れた観察眼が必要となる。
まとめ:パラメータ・リーディング
今回テーマにあげたパラメータ・リーディングに限らず、相手の感情の変化を見るときは自分ではコントロールできない瞳孔の変化を観察することが重要なポイントになることをお伝えした。
相手が話をしているときは大半の人が相手の目を見ていると思うが、ほとんどの人はただ目を合わせているだけで、そこには何の目的もないだろう。こういった分野に強い興味や関心がない人が相手の瞳孔の変化まで観察しながら目を見ているとは考えにくい。
先でも触れたが、私たち日本人の目は欧米人に比べて瞳孔と虹彩の識別が極めて難しい人種のため、見ようとして見ていないものは視界に入っていてもほとんど認識していないといえる。
表に出てこない相手の感情に敏感になりたいという方がもしいるのであれば、観察をパスして技術の習得はないと思っておいていいだろう。なぜなら、真の感情は認識していない視覚下にあらわれる情報と密接な関係にあるからである。
瞳孔の変化は、私たちに限りなく真実に近い多くの情報を与えてくれる。
まずは、普段視界に入っているのに見えていないものがどこにどれだけあるのかに関心を向け、何を見るのかではなくどう見るかに視点を転換していくと今まで見えなかったものが見えてくる手掛かりになるはずだ。