特定の相手や自分が目的とする相手と*ラポールを築くためには、その相手に対して思考や心情などをくみ取る用意がこちらにあることを示さなければならない。
(臨床)心理学用語で「信頼関係」のことをいう。
自分に対して心を開いてもらうためには通常ならそれなりの手順(互いを探り合うための時間)が必要になる。
数分前に知り合ったばかりのどこの誰かもわからない人にいきなり個人的な悩みを相談しようと思う人はまずいないだろうし、相手の素性がある程度見えてくるまでは自分のことを話すよりも相手が何者なのかを先に知ろうとするのが人の性(サガ)である。
心の底から相手に良い関係を望む場合、大抵の人は恐る恐る相手に近づこうとするだろう。理由は簡単で嫌われることを恐れるからだ。
男性なら女性を、女性なら男性をイメージしていただくとわかりやすいと思うが、良い関係を築きたいと思っている相手には、自分の価値観や世界観に必ずしも共感や同意を得られる保証がないことは誰もがわかっている。
相手がどういう人間で物事をどう解釈し、人をどう見る人間かが大よそわかるまでは心理的に嫌われることへの恐怖が優先されるため、自らが望む結果に近づけることを優先するあまり、相手に対して同調することを優先的に選択するほか、腹の中で思っていることと真逆の言葉を口にすることもあるだろう。
相手との距離を縮める過程で、心理的恐怖は障害になっているケースが多い。何でもかんでも科学を使えばいいというわけではないが、心理的恐怖がどうしても拭えない場合は科学で上書きしてしまえば、その障害はパスすることもできる。
そこで今回は、NLP(神経言語プログラミング)のコミュニケーションスキルのひとつとしてもよく使われる、「バックトラッキング」というテクニックを紹介する。
このテクニックは知識も練習も必要ない。今すぐ実践で使えるテクニックのひとつで相手の潜在意識に効果的に働く手法なので、バックトラッキングという言葉を聞いたことのない方やそのプロセスをご存じない方は、覚えておくとコミュニケーションスキルを向上させるきっかけのひとつになるはずだ。
そして、その機会がきたときに必ず実践し、バックトラッキングを実行したあとの相手の反応(声のトーン/表情/姿勢の変化など)も観察力を鍛えるために併せて記憶にとどめておいてもらいたい。
バックトラッキングとは
日本語で「オウム返し」と呼ばれるNLP(神経言語プログラミング)用語のひとつで、相手が発した言葉を繰り返すことで、こちらが相手の話をしっかり聞いていることを相手に自覚させるほか、相手に自らが発した言葉を改めて再認識してもらう効果がある。
バックトラッキングによって得られる効果
バックトラッキングを行うと、相手は
女性
- 自分の話をちゃんと聞いてくれている
- 自分がどういうことを言いたいのかを理解してくれている
- 自分を受け入れてくれている
という感覚になり、うまく機能していれば、
女性
という印象を与え、心を開かせるきっかけに繋げることが可能になる。
相手がおしゃべりが好きで、とにかく自分の話を聞いてほしいという女性なら、相談事や何か聞いてほしい話があるときは他の誰でもなく、あなたをその相手に選んでくるようになるだろう。
したがって、
- この人とはたくさん話をしたい
- 長話をしても苦にならない関係を築きたい
- 話の聞き手として話しやすいと思われる人になりたい
女性
と思う相手には、非常にシンプルで効果的なテクニックである半面、あまりしゃべりたくないと思う人や長話になると疲れるような人に使うと、終わりの見えない会話に付き合わされる原因になり兼ねないので、その点は注意が必要かもしれない。
バックトラッキングの注意点
バックトラッキングは相手が発した言葉を繰り返すだけの極めて単純でシンプルなテクニックである。知識や練習を必要とせず、いつ、どこで、誰にでもすぐに使えるところもこのテクニックの魅力のひとつといえるだろう。
しかし一方で、何でもかんでも自分の感覚で適当に繰り返せばいいというわけではなく、「繰り返す言葉」とその「返し方」には少し捻りが必要になるときもある。
バックトラッキングのみならず、ページングやミラーリングなどのNLP(神経言語プログラミング)を用いた潜在意識に作用するコミュニケーションスキルの多くは、一度でその効果を期待するものではなく、重ねて使うことでその効果が徐々にあらわれてくるものが大半を占めるため、暗示をかけるときと同様、相手の意識に入れないことが絶対条件となる。
意識に入れないというのは、バックトラッキング(ページングやミラーリングも同様)を行っていることを悟られたり、「ん?」と思わせるような違和感を相手に与えては意味がないということである。
- (こいつ、やたら俺が言うた言葉繰り返しとるなぁ…)
- なぁ、さっきから何で俺が言うた言葉繰り返してんの?
男性
このようなことを相手に思わせたり、言わせたりしたときは完全に失敗しているのでいったん引き下がろう。
人は感覚的に違和感を覚えるとその事実や行動に対して注意力が緻密になるため、相手の言動をしばらく警戒するようになる。
心理テクニックというのは、相手がそこに深い意味はないと流す(気づかず流してしまう)程度のところに本当の意図と目的が、ある技術によって仕込まれているからこそ、相手の無意識の領域に侵入することが可能になるわけで、こちらがやろうとしていることが違和感という形で相手の意識に入ってしまうとその時点で機能しなくなることを覚えておいてもらいたい。
バックトラッキングの例文
知識も練習も不要で、すぐに使える効果的なバックトラッキング。その中身を簡単な会話を例に見ていくことにしよう。
ちょっとちょっと、聞いてくれる?昨日めっちゃ面白いことがあってな…(笑)
女性
例えば、上のような口調であなたに話しかけてきた女性がいるとする。実際にそのシチュエーションをイメージし、この一文から読み取れる女性の感情を拾えるだけ考えてみてほしい。
この短い一文からでも、姿勢や表情、声のトーンなどから相手の感情がある程度推測できる。
男性
- ”ちょっと”を繰り返しているところから、早く喋りたくて仕方がなさそうだ。
- この場合の”聞いてくれる?”は”喋らせてほしい”、”聞いてほしい”という意味だろうから、こっちがその話を聞くかどうかの承諾を得るつもりは最初から無さそうだ。だから、”聞いてくれる?”の後は途切れず、こちらが言葉を挟めるほどの間は空いてなかった。
- ”面白いことが…”と言っているときにすでに笑顔がこぼれていたから、もうその時の光景が頭の中を過っていただろう。
- 体も前のめりで身を乗り出しているし、いつもより声のトーンも上がっている。これは今このタイミングで聞いておいたほうが良さそうだ。
そんなことが読み取れるはずだ。
コミュニケーションにおいて聞き上手になるためには相手が何を言っているかではなく、どういうことを言いたいのか、どういうことを言おうとしているかをどれだけ早い段階で拾えるかが重要なポイントになる。
言葉というのは、自分が伝えたいと思っていることを相手が理解できる形に置き換えた手段のひとつに過ぎず、必ずしも相手の伝えようとしていることが言葉で表現できているとは限らないため、口から出てくる言葉そのものよりも、相手がどういうことを伝えようとしているのかにどれだけ早く気づけるかが、相手に対してこちらの理解度を示す大きなカギになる。
今回のケースでは、女性が誰かに話さないとじっとしてられないほど面白いことを体験したため、その一部始終を早く誰かに話したいわけである。
親切にも、
面白いことがあってな…
女性
と、このあと自分がどういうことを話そうとしているのかまで伝えてくれている。つまり、キーワードになるのは”面白いこと”。
したがって、バックトラッキングで使う繰り返しの言葉は”面白いこと”がこの場合、適切といえるだろう。
ちょっとちょっと、聞いてくれる?昨日めっちゃ面白いことがあってな…(笑)
女性
男性
面白いことあった!?なになに!?なにがあったん?(笑)
もうひとつ例文を見てみよう。
ちょ、昨日音信不通やった友人と13年ぶりに連絡が取れてん…
女性
男性
13年ぶり!?!?(ここで驚いているように見せるため1秒ほど間をあける)に連絡が取れた!?
それ、すごいな!うん、それでそれで?
なぜ、”13年ぶり”の後に(驚いているように見せるための)間を空ける必要があるのか?
”連絡が取れた”の前に、わざわざ”音信不通やった友人と13年ぶり”と具体的な言葉を補足する女性の意図を考えてみてほしい。
「音信不通やった友人と連絡が取れた」でもなく、「13年ぶりに友人と連絡が取れた」でもない。「音信不通やった友人と13年ぶりに連絡が取れた」である。
”音信不通”という言葉を使ってくるところから、二度と連絡が取れることはないと半分諦めていたという感情が読み取れる。
加えて、”13年ぶり”という長期的な意味を示す具体的な数字を絡めてくるといった、事実を強調したいときに出る言い回しを使っているところからも、当人にとってはすごく珍しい奇跡的なこと(懐かしい気持ちや喜ばしい感情が生まれている)が起こったのだということが推測できる。
よって、13年ぶりという言葉の後に少し間を空ける(驚いているように見せる)ことで、
- それは本当に珍しい
- 普通ならそんなことはないだろう
- 奇跡に近いこと
という相手の感情に同調する意思を間(驚き)で示すことで、
男性
僕は、今から君が話そうとしていることに興味があるし、その話を理解しようとしているよ。
ということを感覚的に相手に刷り込むことができる。
なぜなら、驚きという感情は単独で起こることはなく、驚いた直後に必ず別の感情に書き換えられる(恐怖/喜び/悲しみなど)ため、驚いたように振る舞うことで、相手は
自分の(聞いてほしい)話の続きを、まだ興味を持って聞いてくれそう…
女性
と思うからである。
バックトラッキングを使いまくる有名司会者
テレビの世界に度々バックトラッキングを使っている有名司会者がいる。誰もが知るお笑い芸人、明石家さんまさんである。
彼が司会を務める番組に「恋のから騒ぎ」という番組があったのは多くの人がご承知のとおりだろう。この番組は、から騒ぎしたい一般女性をスタジオに招き、あるテーマについてトークを面白おかしく展開するというバラエティ番組である。
もし、「恋のから騒ぎ」やさんまさんの番組を観る機会があれば、彼が返す言葉に注目してみてほしい。彼がバックトラッキングというテクニックの存在ををわかって意識的に使っているのかは定かではないが、「恋のから騒ぎ」ではかなりの頻度で使っている。
例えば、「恋のから騒ぎ」は新しい女性が入ってくるとさんまさんがその女性を名前で呼び、女性が手を挙げたり返事をすると、
明石家さんま
- おいくつですか?
- なにやってらしゃる?
と質問され、簡単な紹介を受ける。
では、その簡単な会話の中でさんまさんが使うバックトラッキングを見てみよう。
明石家さんま
おいくつですか?
20歳です。
女性
明石家さんま
20歳、何やってらっしゃる?
大学生です。
女性
明石家さんま
え、どこの?
大阪です。
女性
明石家さんま
大阪の大学、えぇ…
短い会話の場合は、バックトラッキングの頻度が多くなると相手の意識に入りやすくなるので、上のように「大学生」と「大阪」みたいに2つ(複数)のキーワードを「大阪の大学」と後から併せて返すのもこのテクニックのひとつである。
バラバラに出た複数のキーワードを後から繋げてひとつにして返すのは、相手の話をしっかり聞いて理解していないとできない。よって、相手に与える(話を聞いている/理解してくれていると思わせる)効果は通常のバックトラッキングに比べて、より強くなる。
他にも、女性の弁護士がスタジオに来た際、
明石家さんま
何回目で(試験に)とおったの?
という質問のあとに女性が
2回目です。
女性
と答えると、
明石家さんま
2回目でとおったんだ、すごい優秀やなぁ、それ…
と女性の発した言葉をさり気なく繰り返している。
しゃべりが早く、話の途中で本人以外の人にも振りを入れたり、相手が意識する間もなく話が進められていくので要所要所で差し込まれるバックトラッキングにはまったく違和感がないのだ。
また、これは私自身もよく使うことがあるのだが、相手が自分の伝えたいことをうまく言葉にできず、ちゃんと伝えたいことが届いているか不安そうな様子を見せたときは、相手の言おうとしているであろうことを自分の言葉に変えて相手に返してあげるといい。
これは相手からすると、自分の頭の中にはなかった言い回しで言葉が返ってくるため、こちらが返した言葉と相手が言いたかった内容が合致していると自分がどういうことを言いたかったのかをちゃんと理解してくれているという確信が相手の中で入るので、かなり効果的なのだ。
男性
要は、こういうことが言いたいんやろ?
という点が合致する返答ができれば、相手から
そう!そう!そういうこと!それが言いたかった!
女性
という言葉や反応が返ってくるはずである。したがって、こういう状況を作り出せたときは、相手は自分の話をあなたが100%理解してくれていると信じ込むので、これだけで相手が一瞬であなたに心を開いてしまうことも十分あり得るのである。
さんまさんに至ってはバックトラッキングをばら撒くように使っているので、このテクニックの使い方や差し込むタイミング、それを使った後の対象者の反応なども併せて確認しみてみほしい。
まとめ:バックトラッキング
今回はバックトラッキングの意味とそれを使う際の注意点、例文や誰もが知るテレビの世界にその実例の一部始終を確認できるモデルが実際にあることもお伝えした。
バックトラッキングの使い方や差し込むタイミングがもうひとつわからないという方は、さんまさんが振りを入れた後の返しなどを参考にしてみるといいだろう。
女性
(あぁ、言うてる!言うてる!なるほど、こうやって使うんだ)
注意深く聞いていれば、必ずその局面に気づけるはずである。
京都の大学…(0:33)
25歳、何やってらっしゃる?…(0:40)
料理作ってんの!?…(0:50)
2回目でとおったんか?すごい優秀やな、それ…(1:21)