「恐怖」の微表情

恐怖の微表情

どんな人間にも必ず「恐怖」が存在する。

男性

  • 俺には怖いものなどない
  • 失うものなんか何もない

そう言って「自分には怖いものはない」と言い張る人もいるが、それは嘘である。

物理的な障害を抱えている場合を除いて、恐怖のない人間はこの世にひとりも存在しない。なぜなら、恐怖は自分の身を守るためにすべての人間にもともと備わっている必要な感情だからである。

恐怖の体験

東名高速道路東京ICから厚木ICの約35km間を、ランボルギーニパガーニなどの高級車で時速300kmを維持しながらアクセルを踏み続けられる人がどれぐらいいるだろう。

実際にやってみるととんでもないスリルと爽快感を得られるだろうが、恐らくその区間に車や動物など、何らかの障害になるものと遭遇しないことが100%約束されていたとしても、車のことを熟知しているプロのレースドライバーですらそこまでアクセルを踏み込める人は皆無に近いはずだ。

これは、仮に障害となる人や車が存在しないことが約束されていたとしても、時速300kmという未知の領域で予定外の事態が生じたときにはほぼ100%即死になるという事実と、経験したことのない速度で起こる車の挙動にどうしても不安が残るためである。

公道は、最高速度が300kmを超える車のテストコースやサーキット場とは違い、路面状態は常に不完全である。車がたくさん行き来する路面には必ず凹凸ができ、速度が速くなればなるほどその差が振動に変わってカラダに伝わってくる。これも大きな不安材料だろう。

つまり、スリルというのはその先にある恐怖という感情があってこそ体験できるものであり、その恐怖やその先に待っている苦痛が完全になくなれば、腹が立てばすぐに人を殺し、お金に困れば強盗を考え、ムラムラすればレイプで欲を満たすなんてことがあちこちで起こっても不思議ではない。

しかしながらそうならないのは、その先にある法の裁き死に繋がるという恐怖が理性によってそういったぶっ飛んだ行動を抑制していると言えよう。

時速300kmでハンドル操作を誤れば即死、人を殺せば終身刑死刑、法を犯せば罰金または刑事罰、これらを好んで望む人間はいないはずだ。

恐怖の種類

恐怖には、身体的苦痛心理的苦悩の両方を含む危害ある。

例えば、あなたが以前に尿管結石を患ったことがあるとする。私は経験がないが、尿管結石は七転八倒の苦痛を伴うほど激しい痛みに襲われるため、人によってはあまりの激しい痛みに失神するという話も聞く。

病院で診察を受けた際に、医師から

医師

○○さん、尿管結石の疑いがあります。

なんて言われたら、

患者

え?!また!?またあの痛みに襲われるのか…。

と、一度経験した苦痛が脳裏を過ぎり、強い恐怖苦痛に襲われるだろう。これが、身体的苦痛に当たる恐怖である。

 

心理的危害には、自尊心や信頼、安心感の損傷に加え、愛情や友情、所有物などの喪失がある。

例えば、あなたが男性で彼女や女友達と街を歩いているときに、厄介な数人の集団絡まれたとする。そして、その集団のリーダー的人間が、あなたと一緒にいる彼女または女友達に絡みだした。

イキったチンピラ

なぁ姉ちゃん、可愛いなぁ、ちょっと俺らに付き合わへんか?

そんなベタな絡み方をする人はいないだろうが、もしそうなると真横で絡まれている女性をあなたは放っておけないだろう。

女性を守ろうと、一人でその集団に立ち向かったあなたはボコボコにされてしまった。

この場合、あなたは身体的苦痛と心理的危害を同時に受けることになる。殴られたという事実が身体的苦痛で、女性を助けられなかったという事実が心理的危害だ。

揉め事や喧嘩を無意識に避けるようになるかもしれないし、二度と女性と二人で外を歩くのは止めようと思うかもしれない。

驚きと恐怖の違い

驚きの表情 「驚き」が語る4タイプの微表情

上の「驚きが語る4タイプの微表情」でも触れているとおり、驚きと恐怖は感情的にかなり近い関係にあるが、恐怖は3つの重要な点で「驚き」とは異なる。

驚きは、何に驚いたのかを認識した瞬間に別の感情に書き換えられるため、その時点では快適な状態とも不快な状態とも言えない。ところが、恐怖は例え軽い場合でも不快な感情である。

怯えた人の皮膚は青白くなり、汗ばむかもしれない。息づかいは速くなり、心臓の鼓動は大きく響き、脈拍は激しく打ち、胃はムカついて張ったようになるかもしれない。

*膀胱や腸が緩み、両手は震えるだろう。

映画などで失禁するシーンは恐怖で膀胱が緩むために起こる事象。

いずれの場合も、恐怖を感じている人が取ろうとする姿勢は*逃走である。

逃走

この場から早く立ち去りたい、この状況を早く終わらせたいという感情。

この状態は人を消耗または疲弊させるため、極端な恐怖状態に長時間耐えられる人は訓練された人でない限りいない。

 

2つ目の重要な点は、すでに結果がどうなるかわかっている事柄が起こりかけているとき、それに恐れを抱くことがあるという点だ。

例えば、大半の人は散髪屋(美容室)マッサージはそう簡単に変えたりしない。

これは、いつも行っている店やいつも自分を担当してくれている人なら、はじめて行く店よりは自分のことをよくわかってくれているから、仮にいつもと違うオーダーをしたとしても自分のイメージと大きく違うことはしないだろうという不安がその時点で消滅しており、それが安心感に代わるからである。

お客は、そのサービスに決められた代金を支払うことを約束する代わりに、どこまでその結果に自分が満足できるかを期待しているのだ。

よって、以前に経験や接触がある過去において、そこに「驚きの感情」が生まれることはない

ところが、はじめて行く店で

男性

美容師は免許を持ったプロだし、美容室はどこも同じで大して変わらないだろう…

楽観的な人はそう考えるかもしれないが、もし最初にオーダーだけとおしてカット中に寝てしまい、終わったときにその仕上がりを鏡で確認してみると、実は自分のイメージと違っているなんてことは珍しくない話である。

この瞬間、あなたは「驚き」と「恐怖」、または「驚愕と恐怖の混ざり合った経験を体感する」ことになり、

  • ここの美容室(美容師)は、客のオーダーを理解しないまま髪を切る
  • オーダー(イメージ)どおりにしてくれない美容室にお金を払ってまで切ってもらう理由はない
  • やっぱり自分のことをわかってくれている美容師に切ってもらうほうがいい

男性客

特に女性の場合は、男性以上に髪は重要なアイテムである。一度切ると、伸びるまで元に戻せない髪においては初回の印象がその後を決めると言っても過言ではないだろう。

 

3つ目の重要な点は、驚きと恐怖の持続時間の違いである。

驚きはもっとも短い感情であるが、恐怖はそうではない。恐怖を引き起こした原因がはっきりしても、その恐怖は残存してしばらくはなくならないのである。

この例えには、大型トラックの長距離ドライバーを例にあげてみよう。

長距離運転手の多くは、大半の人が眠っている深夜に車を走らせている。昼間、明るい中を走るのとは違い、人や車も少なくなった夜道を走るのは、外が暗いだけで眠気に襲われやすい状態にある。

加えて、大型トラックのように運転席が観光バスの客席くらいの高さにあると、速度が80km出ていても体感速度は60kmぐらいに感じてしまい、走っている場所が高速道路なら景色の変化もほとんどないため、速度は極端に遅く感じ、一度眠気に襲われるとなかなか戻ってこれない

これは、私が大型トラックの長距離ドライバーの経験があるからこそ言える話で、決して想像や憶測で言っているわけではない。

大型トラックの事故が多いのは、ドライバーが運転中にこういった状況に駆られているのも理由のひとつである。

サービスエリアで休憩したり、コンビニで眠眠打破などを飲んでも5分と持たない。トラックを走らせると5分以内に再び眠気が襲ってくる。

私のいた会社では、それぞれの運転手が眠気と戦うために独自の工夫をしていた。

一番多かったのは同じ時間帯に運転しているドライバー同士で電話をしながら互いに眠気を誤魔化していたことだろう。しかし、毎日そんなに都合よく相手が見つかるわけではない。

ひとりで眠気と戦わないといけないときは、真冬に窓を全開にして走ったり、エアコンで車内をガンガンに冷やしたり、アダルトDVDを大音量で車内に流したり、全裸で運転したり…。

アダルトDVDも観たくて観ているわけではなく、そんなもん観るくらいなら1分でも寝たいというのが本音だった。しかし、寝るためにはトラックを停めなければならない。

毎日、関西と関東の往復で普通の人が仕事を終えて家でくつろぐ時間帯から片道600kmから700kmを走る。夜20時頃荷物が積み上がり、翌6時には場所がどこであろうと現地にトラックを着けて荷降ろしができる状態にしておかなければならない。

大型トラックはコンピュータでリミッター制御されているため、いくらアクセルを踏み込んでも最高速度は98km以上出ないようになっている。

中には、リミッターを解除して100km以上で走っているトラックもいるが、大阪から東京までを例にあげると全高速で休憩なしの走りっぱなしでも約8時間、下道を経由するなら場所によっては13時間かかることもある。

トラックを停めて休憩している時間など当時はなかった。

決められた時間に荷物を届けることができなければ、延着でクレームになり信用がなくなる。

大型トラックの長距離運転手の大半は、そういった過酷なスケジュールで眠気と戦いながら走っている人が多いのだ。

長距離運転手の中には、たまに幻覚を見ることがあるという人もいるがこれも本当の話である。工事の赤いランプが車のテールランプに見えたり、道路に落ちているゴミが人に見えたり…

私もその経験があるひとりだが、幻覚によって何もないところでタイヤから煙が巻き上がるほどの急ブレーキをいきなり踏むなんてこともあった。トラックの箱で前が見えない状態で後ろを走っていた車は、意味の分からない急ブレーキに背筋が凍りつくほど驚いただろう。

しかし、このとき感じる恐怖ほどドライバー時代に怖いと思ったことはなかった。

不思議なもので、アダルトDVDを大音量で流そうが真冬の雪道を窓全開で走ろうが、どうやっても吹き飛ばなかった眠気がこういう恐怖を感じたときには一瞬で吹っ飛び、その後もギンギンに目が冴える

居眠り運転で背筋が凍るような事故をしかけた経験のある人、または事故をしてしまった人はこの話がよくわかるだろう。

今回のトラックの例も驚きと恐怖が合わさって起こる一例だが、今回のケースでは驚きはその瞬間に恐怖に書き換えられ、その恐怖はしばらく続くということをお伝えしておきたい。

「驚き」は一瞬で別の感情に書き換えられ、「驚き」から書き換えられた感情はしばらく持続するということである。

サプライズが好きな女性は、そのサプライズに自分が驚ろかされた直後に襲ってくる、あの喜びと嬉しさをイメージしていただくとわかりやすいはずだ。心地よい感情が幾度となくあなたの中を駆け巡り、あなたの表情はしばらくの間笑顔に包まれているだろう。

恐怖の顔貌

人が恐怖を感じているときは、顔の3つの領域(主に眉・眼・口)にそれぞれの特徴が見られることがわかっている。

眉が引き上げられて共に引き寄せられ、両眼は見開き、下瞼が緊張し、唇が後方に引っ張られるのが特徴だ。

では、それぞれの特徴を写真で見ていくことにする。

恐怖をあらわす眉

以下の写真は「(A)驚き」と「(B)恐怖」の眉を比較したものである。

恐怖の眉

  1. (B)恐怖の眉は、驚きと同じように持ち上げられる
  2. (B)恐怖の眉は、内側が互いに閉じるような形で引き寄せられる
  3. 恐怖では額を横切る水平の皺が、驚きのように額全体に何本もあらわれることはない

恐怖をあらわす眉は通常、恐怖の眼や恐怖の口と連動して生起するが、その恐怖が眉だけにあらわれて他は中立という場合がある。この場合、その表情は恐怖に関連のあるメッセージを伝達することになる。その表情が以下(写真右)である。

この写真の右側の表情は、眉だけに恐怖があらわれた表情を示している。左側は中立だ。

眉だけに恐怖があらわれた表情は、心配不安懸念、または抑制された恐怖を意味する。

さらに、(B)右側の恐怖を示す表情には、目や口元にもわずかに心配な感じがうかがえるのがわかるだろう。ところが、(B)右側の恐怖を示す表情の眉以外は、(A)左側の中立の表情をそっくりそのまま合成したものなのだ。

ここでは眉がわずかに変化するだけで、眼や口元も変化しているように見えてしまうということだけ認識してもらえればいい。

恐怖をあらわす眼

人は恐怖を感じると両眼が開かれて上瞼が引き上げられ、下瞼は緊張する

以下の写真は、(A)恐怖の眼、(B)中立の眼、(C)驚きの眼を示したものだ。

恐怖の眼

驚きと恐怖の眼では、共に上瞼が引き上げられ、虹彩の上の白い部分が露出するのが特徴だ(1)。

ところが、下瞼ではその特徴がわかれる。

下瞼は恐怖では緊張し引き上げられる(2)が、驚きでは弛緩する。恐怖で見られる下瞼の緊張と隆起は、虹彩の一部を覆い隠すほどである(3)ことが確認できよう。

また、恐怖をあらわす眼も眉と同様、単独(眼以外は中立)であらわれることがある。

この場合は、瞬間的に両眼が恐怖の様子を帯びる極めて短い表情になるが、このとき感じている恐怖の度合いとしては一瞬ドキッとした程度か、抑制された恐怖かのいずれかであることが確定する。

恐怖をあらわす口

人は恐怖を感じると、口が開き唇は緊張する。

恐怖の度合いによっては、唇が後方に強く引かれることもある。以下は、(A)(B)が恐怖、(C)が驚き、(D)が中立の口元をそれぞれ示した写真だ。

恐怖の口

(A)の恐怖の口は、(C)驚きの口に酷似しているが、重要な差異がある。それは、驚きには見られる唇の弛緩が、恐怖の口には見られないことだ。

上唇は緊張し、唇の角には後方に引かれた痕跡が残っている。隣の(B)恐怖の口では、唇は押し広げられ、唇の角は後方に引かれて緊張しているのが確認できる。

恐怖の口は、通常恐怖の眼や眉とともに生ずるが、こちらも恐怖の眼と眉同様、それぞれ単独で起こることもある。その場合は、少し異なる意味をもつ。

以下の写真を見ていただきたい。

(A)(B)ともに口元以外は中立で、口元だけ(A)左側は驚き、(B)右側は恐怖を示している。(B)右側の顔は心配または懸念を意味するのだが、これは恐怖経験の初期に見られる束の間の感情である。

ところが、(A)左側の表情は「驚きが語る4タイプの微表情」のところでも述べたとおり、唖然としたときの表情であり、実際に人が呆れ返るほどの振りをするときに起こる。

口元以外は中立で、口だけが押し広げられて恐怖の口を作るときは、唇が後方に引っ張られても素早く元に戻るごく短時間で消滅する表情である。

以下の男性の表情を見てほしい。

左側が中立の表情で右側が口だけに恐怖があらわれた表情である。この表情が顔にあらわれてすぐに消えたのなら、男性は内心恐れを抱いていることになるのだが、それを表に出さないよう隠そうとすると、このように口だけが恐怖を示す表情になる。

男性

(心の中で…)
うーわっ!やってもうた…
これは…、ヤバいって…

そんな状況をイメージしていただくと、しっくりくるはずだ。

この後、

  • 恐ろしいことが待っている
  • 苦痛な経験をする

ということが大よそわかっているときもこの表情が出る。

幼い子供が何人かで家の中を走り回ってガラスを割ってしまい、親に

子供が恐れる父親

二度と家の中は走るな!次やったら〇〇するからな!

と、強く叱られた矢先にまた同じことでガラスを割ってしまと、子供たちはお互いに顔を見合わせこの表情をするだろう。

恐怖と驚きの混合

恐怖は、悲しみ、怒り、嫌悪など、他の表情と同時に起こる場合もある。

恐怖と混ざるもっとも一般的な感情は「驚き」で、これは恐怖の原因になる出来事が予期せぬ場合であることが多いためだ。

恐怖と驚きは同時かほぼ同時に起こり、顔のある部分で驚きがあらわれ、別の部分に恐怖が出る。恐怖と驚きが混ざり合っている場合は圧倒的に恐怖の印象が強くなるので、恐怖の特徴を抑えておけば恐怖と驚きが混合した表情であっても、その中に恐怖を見落とすことはまずないだろう。

まとめ:恐怖の微表情

  • 両眉が引き上げられ、ともに引き寄せられる
  • 額の皺はその中心部にでき、額全体を横切る形にはならない
  • 上瞼は持ち上げられ、黒目の上の白い部分があらわになる
  • 下瞼は緊張し、ピーンと張る
  • 口は開き、唇は緊張して後方に引かれるか、押し広げられて後ろに引かれる

満面恐怖(眼・眉・口の3点すべてに恐怖があらわれた完全な恐怖)の表情

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