人は隠し事や嘘をついている自分に自覚があるとき、恐怖やストレスからくる重圧によって少しでもその場から早く立ち去ろうとする心理が働く。
これを、生理的逃走反応という。
例えば、「日本人が握手をしているところを想像してみてほしい」と言われると、安倍総理が外交で海外の政治家と握手をしているところをイメージするかもしれない。もしそうだとすれば、それはテレビのニュースなどで抜かれた映像が記憶に強く残っているからだろう。
日本では握手をするという機会があまりないが、欧米では出会ったときに言葉の挨拶と併せて握手やハグ、互いの頬を重ねるなどは当たり前のように行われている。
今回はそのうちの一つである「握手」を例に、その握手からわかる感情と心理を紐解いていくことにしよう。
例えば、仕事であるトラブルが起こったとして明らかに相手に非があるにもかかわらず、相手がその事実をなかなか認めず、ごねているとする。
あなたがその仕事の監督責任者で、当事者同士では話がまとまらないため、その事実確認を含めて相手と和解の交渉をするために、当事者と相手の責任者を合わせた4人で会う約束を取り付けたとしよう。
当事者同士はどちらも引く(折れる)つもりがないので、相手に対して敵対的な表情をぶつけ合っているかもしれないが、互いの責任者は話をまとめるために出てきている。
よって、当事者と同じようにぶつかり合っていては何のために出てきているのかわからないことぐらい互いに承知しているだろう。
この場合、あなたが監督責任者の立場なら最初に挨拶を踏まえて自分から相手の責任者と当事者の両者(その場にいる全員)と握手をしておくことをおすすめする。
そして、間違っても非を認めるような、相手の立場を押し上げてしまう言葉は添えてはならない。
日本には相手の機嫌をとるためや自分の立場をわきまえるために社交辞令やお世辞で心にもないことを口にする場合があるが、すでにトラブルが生じていて、その責任の所在や過失割合を明らかにしなければならない場合においては、その社交辞令やお世辞で口にしたことが裏目に出る場合がある。「和解のための時間をとってもらって…」ということが言いたいのなら、「今日はご足労いただいて…」ぐらいで止めておこう。
その理由を今から説明しよう。
握手と行動操作
ここで、”意識したこともない”ことを考えてもらおうと思うのだが、握手はどういうときにしているだろうか。また、そのときどんなことが起こっているか考えてみてほしい。
実は、握手という動作には以下に記述するような無言の肯定的な意思を暗示する意味が含まれている。
- (意見が)合意する
- (事情や申し出を)了承する
- (相手の要求を)受け入れる
当たり前だが、握手は単独(ひとり)では絶対に成立しない。必ず相手がいて成立する動作である。
例えば、
- ケンカの途中で求める握手は「仲直り」。
- 長い討論の最後に見られる握手は「和解」。
- 契約成立時に見られる握手は「合意」。
顔を合わせて一発目の握手を、大半の人は挨拶がわりと捉えるだろう。ところが、こちらから握手を求めたことに対して相手がその握手を受け入れた場合は、同時にその時点でもうひとつの大きな目的を果たしたことになる。
先ほど、握手には「合意する」「了承する」「受け入れる」といった意味が握手そのものに含まれていることを説明した。
相手が挨拶がわりと思っている握手は、実はこちらが提案した「合意」「了承」「受領」を意味する行為を”先に受け入れた”という事実が確定する瞬間なのである。
つまり、本題とは直接関係ないことでも、
- こちらが提案したことを“のんだ”
という事実が、話し合いをする以前に成立することになる。
相手は挨拶がわりに交わした握手が本題とは関係ないと思っている。確かにこの時点では本題と関係ない。
ところが、相手から求められた握手を受けたという事実は、相手の要求を一つのんだということであり、頭では影響がないと思っていてもその事実はしっかり潜在意識に書き込まれている。
挨拶がわりに交わした握手を受け入れたことによって、相手は心理的に不利な状況から話し合いがスタートするのである。
握手でわかる感情と心理
相手に握手を求めてその握手を相手が受けた場合は、ただ握手しただけで終わらさないことに注意してもらいたい。
握手をする機会はそう何度も訪れるものではないので、その機会がきたときは相手の感情や心理が手にあらわれるチャンスの瞬間だからである。
では、具体的に何をしたらいいかということだが、相手と最初に握手をした(手を合わせた)ときに相手の手の平の汗の量をだいたい覚えておく。そして、反対側の空いてる手を握手している相手の手の甲に添え、同じように手の甲の汗の量をはかる。
右手で握手をしているなら、握手している右手で相手の手の平の汗の量を測り、左手の手の平で相手の手の甲の汗の量を測る感じだ。
手の平と甲で汗の量に違いがあるとわかったら、すぐに手を離さず簡単な会話で繋いで3秒ぐらいは握手を維持しよう。手の平と甲で汗の量が異なる場合は、以下のような結果が実験によってすでに証明されている。
- 手の平より手の甲のほうが汗の量が多い 単に暑いと感じている
- 手の甲より手の平のほうが汗の量が多い (何らかの理由で)緊張状態にある
「出会いの握手」と「別れの握手」で手の温度を比較する
「出会いの握手」と「別れの握手」で手の温度を比較したとき、「別れの握手」の際に手の温度が明らかに下がっていると感じたときは少し注意したほうがいいかもしれない。
人は恐怖とともに生理的逃走反応が起こった場合、体が自然とそれを避けようと逃走の準備に入るため、全身の血液が一気に脚に流れ込むことで手が冷たくなることがわかっている。
出会ってから別れまでの間に手を冷やすような行為や体が冷えるような状況下にないのに、「出会いの握手」よりも明らかに手が冷たくなっていると感じた場合は、話をしている最中のどこかで相手に生理的逃走反応が働いた可能性がある。
あなたと接触回数が増えることで都合の悪いことがあるのかもしれないし、途中で終わっていた話をこれ以上追及されたくないと思っているのかもしれない。いずれにしても、生理的逃走反応の背景にある感情は「その場からの逃走」に直結するものとなる。
都合の悪いことを問い詰められたり言い訳が立たなくなったりしたときなどにあらわれやすくなるので、相手と握手をする機会がある方は覚えておくとこの知識が役立つときがくるだろう。
まとめ:握手にあらわれる逃走反応
明らかに手の温度が下がっていることが確認できたとしても、これだけで鬼の首をとったかのように相手を問い詰めてその理由を追及することはしないでほしい。
また、手の温度が下がったという事実は2回以上にわけて握手を交わした相手だけがわかることで、自分の体温がわずかに下がったことにその都度自分で気づけるような人間はまずいない。よって、握手の際に今回のようなケースが見られた場合は、
男性
何か隠している(可能性がある)な…
ぐらいで、少し相手に対して警戒する(もう少し様子を見てみる)ための手掛かりの一つと捉える程度でいいだろう。
なぜなら、相手の隠していることがあなたに迷惑がかかるようなことや危害を加えられるようなことなのかがはっきりするまでは、何も動けないし判断もできないからである。
仮に相手が本当に隠し事をしていたり嘘をついていたとしても、その時点で隠し事や嘘をついていることで誰にも危害や迷惑をかけていないのであれば、隠し事や嘘をつくことぐらい別に構わない。
誰にでも秘密や言いたくないことがあるのは誰もが周知の事実である。
男性
ここで逃がしたら、あとで確実に自分が困る(迷惑や危害を被る)ことになる…
という状況でもない限り、「何かを隠している」ということにだけ気づければ、それ以上を追及する必要はない。
喧嘩が目的でないのならそっと外から観察しておき、今後に活用するための貴重なデータとして留めておけばいいのである。