人が無意識に選択する言葉の使い方には、その使い方に嘘の兆候があらわれるものが存在する。
言葉の使い方にあらわれる嘘の特徴は日本に限ったことではなく、どこの国の言語にも共通することが確認されている。
知っている人は早い段階で相手の嘘に気づけるが、知らない人は相手が残した嘘の手がかりに疑いを持つどころか、嘘と真実と取り違えてしまうことさえ出てくるだろう。
言葉の使い方から嘘が確認できる事例は過去にもいくつか紹介している。
返答の語尾に隠れる嘘
眉が言葉の嘘を暴く
発言のあとに舌が動くのは嘘のサイン
今回もその一例になるが、実際に出くわす機会が多い事例なので、必要知識として覚えておくと役立つときがくるはずだ。
人は都合の悪いことを無意識に遠ざける
知られて都合の悪いことや、触れられたくないことを問い詰められそうになると、人はその事実を相手から遠ざけようとする衝動によって、不自然な言動を挟むようになる。
例えば、「はい」または「いいえ」で答えられる簡単な質問に、
- 聞いてもないのにその選択をした理由を自ら付け加える
- 質問に質問で返す
これらは、言葉に嘘が隠れている可能性が高いと判断できるケースの一例だ。
昨日、私の友達の○○と会ってなかった?
会ってるわけないやん!
何でそう思うん?
そもそも○○の連絡先知らんし、会う必要なくない?
会ったか会ってないかを聞いているだけで、連絡先を知っているか知らないかや、会う必要性まで聞いてない。また、会ったか会ってないかは事実を確認する質問であり、「何でそう思うん?」という返しは会話として不成立。
人は都合が悪いことを問い詰められると、その疑いを跳ね除けることに余裕を奪われる。聞かれてもない理由を説明することで自分は潔白だと主張したいわけだが、この必要以上の行動が、嘘や隠し事があることを自ら証明する余計な行動なのである。
昨日、私の友達の○○と会ってなかった?
なんで?!
会ってないけど…(汗)
「会ってなかった?」の質問に対する回答は、「会った」か「会ってない」のどちらかしかない。自分の記憶をたどればわかる簡単な質問に「なんで?」と質問で返すのは、どう転んでもおかしいのである。
ただ、このケースの場合、昨日会ってないことが嘘とは限らない。なので、これだけで早まった行動をとらないよう注意が必要だ。
仮に、昨日会ってないことが事実なら、あなたには言えない不純な理由で以前に会ったことを隠し続けているか、あなたに話すと都合の悪い関係が裏で進んでいる可能性があるかもしれない。「会ってなかった?」という質問に「なんで?」と質問で返すのは、あなたと○○の関係に疑いを持った相手が、自分をどう見ているかを確かめておきたくなるからなのである。
いずれにしても、「何かを隠している」「知られると都合が悪い」ことがあるという点では、間違いないと思っていいだろう。
他にも、学生時代に教壇に立つ担任が生徒の誰かに意見や回答を求めようと教室内を見渡していると、指名されたくない人は自分以外の誰かが指名されるまで顔を下に向け、誰かが指名された途端に顔を上げたりする。
また、公道でパトカーとすれ違う際に警察官と目が合った瞬間に視線を反らすと、返って不審に思われて職務質問を受けやすくなってしまうのは、相手を遠ざけようとする行動が目に見える形で外にあらわれるケースの一例と解釈されるからだ。
警察に知られて都合の悪いことがある場合は、最初から警察の存在に気づいていないように振舞うか、目が合ってしまったときにはすぐには反らさないほうがいい。もし、反射的に反らしてしまった場合は、もう一度自分から視線を合わせようとすると意外と切り抜けられたりする。
知られて都合の悪いことを自覚しているときは、普通なら避けようとする行動をあえてすることによって生まれる矛盾が、相手にその疑いを「勘違い」や「思い込み」と思わせることに繋がるからである。
「言葉の反復」は、これらに類似するその一例といえる他、余計な感情が混在していない普通の会話では、通常「言葉の反復」は起こらない。
したがって、相手が無意識に言葉を反復したときは、「通常の会話では起こらないことが起こる=別の感情が隠れている」という解釈になるのだ。
実際に起こり得る会話の事例をあげて解説しよう。
言葉の反復
「言葉の反復」とは、次のような場合のことをいう。
昨日の話、○○にしゃべった?
ううん、○○にしゃべってないよ。
○○の家、行ったことない?
うん、○○の家は行ったことない。
なにか、違和感を感じないだろうか。
文字で見ているとわかりにくいかもしれないが、実際の会話(声/音)でこれを聞くと「ん?」と思うはずだ。
隠し事や後ろめたいことがない場合、通常の会話では次のような返答になる。
昨日の話、○○にしゃべった?
ううん、しゃべってないで。
○○の家、行ったことない?
うん、行ったことない。
先ほどの返答とよく見比べてみると、後者(青枠)の会話には疑いを持つ気にならないが、前者(赤枠)の会話には違和感を感じるはずである。
考えなければ回答できないような質問を除き、「YES」または「NO」で答えられる簡単な質問の場合、私たちはほぼすべての会話で無意識に答えている。自分の記憶の中にある事実をたどるだけで「YES or NO」で答えられる質問は、考えなくても思い出すだけで答えを返せるからだ。
ところが、相手にその事実を知られたくない場合や、触れられると都合の悪い事実を問い詰められたときはこうなる。
相手の質問直後にその事実が自分の脳裏を過ぎり、嘘をついてその場を切り抜けようとすると、相手からその事実を遠ざけようと余計な感情が入ってくるのだ。
- あれ?!どっかでバレたんかな…
- こいつ、なんか知ってんのか…
- 知ってるとしたらどこまで知ってるんやろ…
- 下手に嘘ついてバレたら返って面倒になる…
相手を警戒し始めたときや、これ以上追求されたくない話に触れられると、人は普通なら省略して答えるはずの相手の言葉を無意識に反復してしまうことがある。これは、その事実の否定を強調しようとする感情によって無意識にやってしまう行動の一つである。
相手は、その場をうまく切り抜けようとするのに必死になるため、普通ならやらない不自然な言動(言葉の反復)をしている自分には気づかないのである。
おわりに
自分ではその事実をきっぱり否定しているつもりでも、聞いているほうには違和感を与えてしまう言葉の反復。
言葉の反復は、相手が嘘をついていることを示す典型的な例の一つであり、探られたくない事実を隠そうとしたり、自分が記憶している事実を曲げようとすると、人はいくら事実と異なる言動を脳に指示したとしても、カラダはその命令についてこれない。
ほとんどの人は、嘘を完璧に隠しとおすための耐性が訓練されていないため、事実と異なることを真実に見せかけようと慣れないことをすると、その反動が必ずカラダのどこかに何らかの形であらわれるようになっているのである。
「はい」「いいえ」で答えられるシンプルな質問に、違和感を感じるような返しや、する必要のない言葉まで反復する瞬間を確認したときは、その言葉は鵜呑みにしないほうがいいかもしれない。
言葉の反復は、上司部下・先輩後輩、特に男女関係の間では顕著にあらわれるケースが多くなるため、誰でもその瞬間に出くわす可能性があるものである。
言葉の反復が嘘を示す典型的な一例であること知らない人にとっては、相手が嘘をついていてもその事実に気づけず流してしまうことになる可能性が大きくなる他、場合によっては発見が遅れることで自分の首を絞めることになるかもしれない。
こういった知識やテクニックを知る本当の目的は、決して自分を誇示したり、その知識やテクニックを他人にひけらかしたりして、自分を知的に見せたりするために使ったりするのではなく、あくまでも自分を守るために必要な情報と捉えてほしいのだ。
相手に事実確認をとる機会ができたときにその事実を誤魔化しそうな相手の場合は、今回の記事を含めて以下の関連記事も参考にしてみてほしい。
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