「コミュニケーション」と聞くと、多くの人は「言葉」や「文字」をイメージする。
ところが、実際の会話やコミュニケーションで用いる言葉や文字というのは、私たちが普段何気なく交わしているコミュニケーションの約10%程度を占めるツールにすぎない。
コミュニケーションの大部分は言葉以外、つまり、表情やしぐさ、ボディランゲージで成立している。
例えば、相手を不快にさせたり傷つけたりしたときに、

いいよ、気にしていないから、、、
口ではそう言いつつ、顔を見ると納得していない表情や言葉と一致しない表情をしている人を見たことあるだろう。
この場合、「いいよ、気にしていないから」はあなたとの揉め事を避けるための建前であり、心の中で起こっている真の感情を表現しているのは、言うまでもなく相手の感情が無意識下で視覚化された表情のほうである。
嫌味や皮肉を言うのが好きな人が近くにいる人は、その人をイメージするとよくわかるだろう。「嫌味」や「皮肉」は、言葉と感情が一致しない一例の代表格である。
「嫌味」や「皮肉」は、正論を論理で返せない人間によく見られ、彼らは肯定的な言葉を使いながらも顔は眉を上げて相手を挑発するようなマネをしたり、片方の口角だけを上げて「軽蔑」を表現したりする。
嫌味や皮肉を言われたときは、それが本心でないことに誰もがすぐに気づくだろう。相手の口から発せられる言葉の表現と表情が一致しないのですぐにわかるのだ。
言葉や文字は、本心を偽ったり隠したりする目的でも使われる。言葉や文字がコミュニケーションの大部分を占めていると思っていた方は、今ここで改めておこう。
今回は、唇の動きから相手のストレスの度合いを読み取る方法を紹介するが、その前に「言葉としぐさの真実性」について触れておくことにする。
言葉はツール、事実を偽ろうとしたときの真実は「別の場所」にある可能性大
言語は、相手に自分の気持ちや感情を届けるために、人間だけにその使用を許された非常に便利なツールである。どういう言葉を選択し、どういう表現を使うと相手がどう受け取るか、人が発する言葉や文字というのは、いつ何どきも思考と感情の先に位置する。
相手の機嫌を伺うような表現を使ってみたり、心とは真逆の言葉で相手の気持ちを振り回したりすることも可能してしまうのが言葉である。
嘘をつこうとするとき、ほとんどの人は言葉でその嘘を真実に見せかけようとする。理由は簡単で、言葉以外にその嘘を真実に見せかける方法を知らないからである。
人間の脳は、相手の疑いをその場で瞬時に払拭しようとすると、「言葉と偽装した表情を使うのが一番手っ取り早い」とプログラムされている。だから、嘘をつこうとしていたり、隠し事をしていたりする人間は、探られたくない事実を一刻も早く相手から遠ざけようと、慌てて平静を装った表情と言葉で弁明しようとする。
言葉以外の場所から真実を確認するための知識が肥えてくると、言葉はほとんど必要ないことに気づくだろう。どのタイミングで、どこにどのようにその手掛かりがあらわれるのかを知っていれば、その反応から相手の本当の感情が読み取れるようになるからだ。
表情やしぐさ、ボディランゲージにあらわれるその意味を理解することが重要だと言われるのは、本人の意識が届いていない(気づいていない)ところで目に見える形となってあらわれる反応こそが、極めて真実である可能性が高いと解釈されるからなのである。
「口」に関する記事は以前にも何度か紹介してきているが、人の「口元」というのは、そのときの状況や反応によっても解釈が変わる、相手の感情に直結する多くの情報をキャッチできる場所である。
今回の記事も実践で大いに役立てられる情報なので、相手の「真の感情」を外から読み取るための知識の一つとして覚えておくといいだろう。
ネガティブな感情をあらわす3つのサイン
相手が発する見落とし厳禁のサインは、大きく分けて3種類ある。
わずか3つなので、ここで覚えておこう。
- 「NO」のサイン
- 「不安」のサイン
- 「ストレス」をあらわすサイン
この3つである。
「NO」と「不安」のサインをあらわす事例は後々紹介するとして、今回は「ストレスをあらわすサイン」を口元の動きから読み取る方法について解説する。
口元にあらわれるストレスのサイン
人がストレスを感じたときに見せる典型的な例の一つに、唇を結ぶというしぐさがある。
ストレスが軽いときは唇の結び方も軽いが、ストレスが強いときは唇を真一文字に強く結ぶようになる。





これは、何かがうまくいっていないことを示す確実なサインで、「懸念のあらわれ」を意味する。ストレスを受けた直後にあらわれる、1秒~2秒ほど持続するサインだ。
例えば、二者択一の議題について、相手が一方の話では唇を結び、もう一方の話では唇を結ばなかったら、唇を結んだほうの話のどこかに懸念を抱いていると思っていい。
もし、相手が唇を結ぶ瞬間を確認したときは、そのまま話を進めず、相手が唇を結ぶ直前の部分をもう一度注意深く検討し直してみることをおすすめする。なぜなら、相手が納得していなかったり、懸念を抱いていたりする状態で話を先に進めても、先々で面倒や衝突の可能性が出てくる原因を大きくするだけだからである。
ただ、状況によっては、唇を結ぶしぐさは隠し事をしているサインになる場合もある。次にその一例を挙げるので、混同しないよう整理しておこう。
弁明(拒否)直後に唇を結ぶしぐさは隠し事をしている可能性がある
例えば、会社のメンバーで飲み会に行ったとしよう。あなたは予定があって、二次会の参加を断り、その日は真っすぐ帰宅した。
翌日、仲の良い同僚に、
昨日、二次会で○○とよくしゃべってたよね?
二次会の後、○○とどっか行ったん?
と聞いたとして、相手が
行ってないよ。二次会終わってすぐバイバイしたから…(汗)
と答えながらも、その直後に唇を結んだら二人の間になにか(知られて都合の悪いこと)があったと考えて差し支えないだろう。
唇をすぼめる(突き出す)しぐさが示すサイン
他にも、唇に関するサインで知っておくと役立つしぐさがある。
例えば、蓋にストローをさして飲むコーヒーやシェイクを吸っているときの表情をイメージしてみてほしい。ストローで何かを吸い込もうとしているときに唇をすぼめる(突き出す)あの表情だ。
同じ唇に出るしぐさでも、「唇を結ぶしぐさ」と「唇をすぼめる(突き出す)しぐさ」では解釈が異なる。このしぐさは一瞬で終わるが、注意深く観察していれば見落とすことはないだろう。
口をすぼめる(突き出す)しぐさはストレスのサインではなく、あなたの考えに反対意見を持っていたり、他の選択肢を考えたりしているときに出るサインである。
ちなみに、映画「プラダを着た悪魔」の演出でもこのしぐさははっきりと表現されている。ボディランゲージを読む能力に優れたデザイナー(登場人物のひとり)と、その相手が見せるしぐさに注意を払いながら観賞すると、普通に観るのとは違った側面からこの映画を楽しめるかもしれない。
人が唇をすぼめる(突き出す)しぐさが示す意味を知っていると、言葉には出てこない重要な情報(手掛かり)をキャッチすることができるようになる。
相手が唇をすぼめ(突き出し)たときは、唇を結んだときのようなストレスは感じていないものの、何らかの理由であなたとは別の考えを検討している状態だ。
相手が唇をすぼめる(突き出す)表情を見せたときは、それを確認したタイミングで相手の考えを伺ってみろというサインと覚えておこう。
言葉には出てこない相手の内なる思考を表情やしぐさから読めるようになると、相手本人はもちろん、周囲のいる人もあなたの繊細さに驚きを隠せないはずである。

この人に嘘や隠し事は通用しない…
相手にそう思わせることができれば、あなただけには嘘や隠し事をしようとする気を起こさせないようにすることだって可能になる。
言葉に出てこない相手の内情を何気ないしぐさや表情の変化から読めるようになると、人はあなたに自分のすべてを見透かされているかのような感覚に陥り、嘘や隠し事はもちろん、あなたに対して本心以外見せなくなるかもしれない。
まとめ:唇の動きから相手のストレスを読み取る
「NO」「不安」「ストレス」などのネガティブな感情を暗示するサインは、いずれも不快な体験直後に生じるストレスが原因で可視化される。
ネガティブな感情を示すサインが自分に向けられたときは、絶対に軽くあしらわないようにしよう。
これらは、(そのままにしておくと…)互いの関係に亀裂が入ることになるかもしれない危険をあらわすサイン(無言の警告メッセージ)だからである。
最後に今回の内容をまとめておくので、実践で活用できるようここで整理しておいてほしい。
- 唇を結ぶ(相手の話/反応の直後)
懸念をあらわれを示す、確実なストレスサイン。ストレスを受けた直後にあらわれ、1秒~2秒持続する。受けたストレスが大きいほど、唇の結び方も露骨になる。
相手が唇を結ぶ直前の議題について検討し直そう。
- 唇を結ぶ(弁明/否定直後)
隠し事がある可能性を示すサイン。腕を組むのと同様、唇を結ぶしぐさは相手と自分との間に壁を作る動作が口元にあらわれたもの。
聞かれたことに嘘をついたり、特定の事実を隠したりすることで生まれる罪悪感が、発言直後のしぐさとなってカラダにあらわれる。
弁明や拒否に使った言葉とは真逆のこと、またはそれに近い事実があったことを知っている、もしくは自覚している可能性がある。
- 唇をすぼめる(突き出す)
反対意見や他の選択肢を考えていることを示すサイン。反意・反対・不服・異議があるときにあらわれる。
確認したタイミングで相手の考えを伺ってみることを忘れずに。
以上が、今回の記事のまとめである。
最初は自分が直接関与しない周囲の会話や、自分以外の人間がやり取りしている場面で相手の口元を観察するところから始めるといいかもしれない。
自分が会話の当事者でないほうが、余計なことを気にせず観察に集中できるからである。
相手の口元の変化を細かくキャッチできるようになったら、次は実際の会話やコミュニケーションで試してみよう。
言葉にあらわれない相手の感情を、表情やしぐさから読めるようになってくると、
- なんでわかるん?!
- ちょっと、怖いんやけど…
そんなことを言われる機会が増えてくるようになるが、知識をちゃんと理解していれば何故そういう解釈になるかは説明できるだろうし、説明を受けた相手は黙ってあなたに感服せざるを得なくなるはずだ。
言葉に出てこない相手の心情を読むプロセスに興味を持つ人が増えてきているが、科学を知ったからといって、その知識やテクニックを他人に自慢したりひけらかしたりする必要はない。
自分自身を守るため、自分が不利益を被らないために、こういった知識やテクニックは自分の中だけにしまっておけばいい。
この記事が参考になった方は、以下に掲載する口元に関連する記事も参考にしてみてほしい。
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