人は自分が嘘をついている自覚があるとき、その痕跡を必ずどこかに残してしまう。
どれだけ誤魔化そうと繕っても、神経伝達によってカラダに伝えられる反応までは、相当訓練している人でないと不可能だ。
表情、しぐさ、言葉、声のトーン、発汗、呼吸、脈拍に心拍数など、意識的に何かを抑えようとすると、人は必ずその反動が体のどこかにあらわれるようになっているからだ。
この記事では、上述した三つ目の「言葉」に嘘があらわれるケースを取り上げてみる。
実際によく起こる例をあげて解説するので、覚えておいて損はないだろう。
言葉は嘘の手がかりを残す
自分の意思や感情を伝える手段として、言葉は大変便利なものである。
どの言葉をどのタイミングで差し込み、どういう意図をもって使うかは個々の選択だ。
一度口にした言葉が二度と取り消せないとわかっている人は、相手に発する言葉の一言一句に注意を払うだろう。それは、自分の伝えたいことに誤解を与えることなく、できるだけ正確に受け取ってほしいと思っているからだ。
しかし一方で、余計な感情が入っている場合はその兆候が言葉にあらわれることがある。
ありがちな男女の会話を例に挙げてみよう。
言葉は嘘を暗示する
昨日知り合った女、おったやん?あのあと一緒に寝た?
女性
男性
え、寝ていないよ。
先週の日曜日、新宿行った?
女性
男性
ううん、行っていないよ。
どこにも不審な点が見当たらない普通の会話に聞こえるかもしれない。ところが、この二つの会話の男性の返答には、嘘をついているときや隠し事があるときに返ってくる言い回しが含まれている。
どちらの返答に嘘や隠し事があるときの特徴が出ているか、少し考えてみてほしい。
文字で起こすとわかりやすいが、会話中は声(音)だけになる。相手の使う言葉の微妙な違いに注意を払っていないと、なかなか気づくのは難しいかもしれない。
話している本人ですらその自覚がないわけだが、上の男性の返答は神経学的にも心理学的にも不自然なことなのである。
真実に逆らう感情が言葉の正確な選択を邪魔する
恐らく正解できた人は少ないだろう。
『どちらの返答に嘘または隠し事が…』と尋ねたことで、ほとんどの人がどちらか一方が不自然な返答だと思い込んだはずである。
もし、あなたがどちらか一方が正しくどちらか一方が不自然だと判断し、どちらか一方の返答を選択したのであれば、なぜそれを選択したのか自分で自分の選択に説明ができないだろう。
なぜなら、正解はどちらか一方ではなく、どちらも間違っているからである。
では、解説していこう。
「寝ていない」 は、 『寝てない』 と違う。
科学的には、この違いを「嘘を隠すためや、知られて都合の悪い事実を隠すための強調」として処理する。
「いない」と「ない」はどちらも同じ意味に聞こがちだが、「(寝て)いない」は”寝た“という言葉に対して否定を示すものではなく、日本語の文法としてもおかしい。
新宿行った?
女性
男性
行ってない
行っていない
「いない」は「居ない」である。
人に対してその存在の有無を示すときに使う言葉で、「寝た」や「行った」などの行動を示す動詞と併せては使わない。
本人にとって触れてほしくない話題や、都合の悪い話を遠ざけようとする感情が「その場所にはいなかった」「そこには行ってない」という強い否定を示そうと、疑いから逃れようとする条件反射によって無意識に「ない」ではなく「いない」という文法崩れな言葉を選択してしまうのである。
ちなみに、英語では「was not」と「wasn’t」がこれに当たる。
学生時代に『「wasn’t」は「was not」の短縮形で意味は同じ』と習ったことだろう。しかし、海外の映画などを英語の音声や英語の字幕で表示してみると、ネイティブですら「wasn’t」を「was not」と使っている場合がある。
短縮したほうが言いやすいし、話しやすいと思うのが日本人の感覚かもしれない。だがそれは、学生時代にそう教え込まれたからである。
英語圏では、あえて「not」を短縮せずにひとつの単語として独立させることで、否定が強調された解釈になる。
試しに「寝てない」と「寝ていない」、それから「行ってない」と「行っていない」をそれぞれ声に出して、何度か繰り返してみてほしい。
何回も言葉にするとだんだんわかってくると思うが、「いない」のほうに違和感を覚える人のほうが多いはずである。
まとめ:返答の語尾にあらわれる嘘
人は頭でわかっていなくても、感覚で違和感を覚えることがある。
その感覚は長い間積み重ねてきた経験が脳に刷り込まれたもので、情報が少ない場合はその勘に頼ることがもっとも真実に近づける可能性を高めることもある。
肉眼では気づきもしないほど精巧に偽造された紙幣が、指の平に触れたとき何となく感じるいつもと違う違和感、また、皮膚の凹凸が一切ないのにたまたま肌に触れたときの違和感で気づいた体のアザやシコリなど。
普段当たり前のように何の意識も向けずに触れているものでも、少しの違いでその違いに違和感を感じるのは、自分の身を守るためやその実体に気づくために、もともと人に備わっている必要な感覚であるとされている。
今回は、嘘や隠し事の兆候が会話中の言葉の語尾にあらわれるケースの一例について紹介した。
日常生活での会話やパートナーとのコミュニケーション、職場での上司と部下との間でもよく見られるケースなので、覚えておくとそのときの表情や行動に納得する瞬間がくるかもしれない。