「名」と「姓」の分離は公私の使い分け

人が誰かに問い詰められているとき、「名前」と「名字」が分離しているのを見かけたことがないだろうか。

少しわかりにくいと思うので、例を出してみよう。

例えば、「田中一郎」という男性が「山田裕子」という女性について、ある人から状況確認のために質問を受けているとしよう。

田中さん、先ほどから何度も「知り合い」と仰っている女性ですが、何て名前の女性ですか?

裕子…、山田。山田裕子という女性です。

田中一郎

このように、同じ人物に対して最初に口にした呼称に後から別の呼称を加えたり、フルネームで訂正したりするケースのことである。

経験がある方もそうでない方も、呼称の変化に隠れる深層心理は知っておくと参考になるときが来るかもしれない。

呼称の変化にどんな心理が潜んでいるのか、それを紐解いていこう。

人はそこに加わる第三者を見て適切な呼称を選ぼうとする

当事者間では当たり前のように使っている呼称も、第三者が加われば状況に応じて適切な形に変えるのが呼称というものである。

本題に入る前に、相手によって呼称が変わる事例を見てみよう。

取引先の営業マンがあなたが勤める会社の社長を訪ねてきたとき

 ただいま社長は外出しております。
 ただいま鈴木は外出しております。

 

MEMO

社内やその関係者の間では社長をつけるのが一般的だが、外部の人間に対して自社の社長を指すときは例え社長であっても呼び捨てを使うのが常識。身内をへりくだっていうことで相手に敬意を払う意図(外部の人間が社内に来たときはそのすべてがお客様という考え方)がある。

付き合っている相手方の両親にパートナーの名前を出すとき

 裕子とお付き合いをさせていただいている一郎と申します。
 裕子さんとお付き合いをさせていただいている一郎と申します。

 

MEMO

普段パートナーを呼び捨てで読んでいるからといって、相手の両親の前でも呼び捨てで呼ぶのは礼儀に反する。付き合って何年になろうがいつから付き合っていようが、結婚するまでは他人であり、相手のご両親の大事な娘さんだからである。場所と自分の立ち位置を間違わないよう注意しよう。

上で記述したことからもわかるように、人が「相手を呼ぶ」またはその「相手を指す」ときに呼称を変えるのは、その背景に必ず何らかの理由が隠れていることを示す無意識の行動と覚えておこう。

固有名詞から代名詞に呼称が変わる 固有名詞から代名詞に呼称が変わるのは相手を遠ざけようとするサイン

同じ人物を指す呼称が2つ以上存在する理由

特定の間柄でのみ成立する呼称は、それ以外の人の前では通用しない。

例えば、あなたが「佐藤美加」という女性を「みい」というあだ名で呼んでいるとしよう。

「みい」というあだ名が誰を指しているのかがわかるのは、自分のことを「みい」と呼ぶ人がいるのを知っている「佐藤美加」本人と、その女性を「みい」と呼んでいる人がいる事実を知っている人に限られる。

よって、「佐藤美加」という女性を知っていても、その女性を「みい」と呼んでいる人と接点がない人に「友人のみいが…」といったところで誰のこと指しているのかは伝わらない。

もう少しわかりやすい例を出そう。

ガッキー」と聞いて、あなたは誰をイメージするだろうか。恐らく、ほとんどの人が「新垣結衣」さんをイメージするだろう。

「新垣」という名字は日本にいくらでも存在するのに、「ガッキー」と言われたらほぼ全員が特定の新垣(新垣結衣)さんをイメージする。

つまり、世間では「ガッキー = 新垣結衣」と周知されているため、「新垣里沙」さんのことをガッキーと言う人が出てきても、だれも新垣里沙さんのことだとは思わない。

新垣里沙さんのことを言いたい場合は、彼女のフルネームか彼女を特定するための別の表現が必要になる。

「名」を「姓」で改める人の深層心理

「名」を口にした直後に「姓」で改めるのは、公私が混同したときに起こる。

ここで、冒頭の会話をもう一度思い出してほしい。

田中さん、先ほどから何度も「知り合い」と仰っている女性ですが、何て名前の女性ですか?

裕子…、山田。山田裕子という女性です。

田中一郎

個人的な理由で異性と接触するときに名前で呼ぶのが習慣化していると、その異性の話になったときは状況が異なる場合であっても、自分が普段その異性を呼ぶときに使っている呼称を無意識に口にしてしまうことがある。

そして、相手の異性の「名」を口にした直後にその表現がその場に不適切だと判断した場合は、「姓」で言い直したり、フルネームに訂正して改めようとする。

しかし、「名」を口にした直後に「姓」で改めた時点でもう遅い。

なぜなら、異性を下の名前で呼ぶのは相当距離が近い間柄か、特別な関係でないと普通はしないからである。

「名」は「姓」に比べて二人の関係をより近くにイメージさせる

異性の名前を下の名前で呼んだ直後に「姓」や「フルネーム」で改めるのは、二人のことについてこれ以上探られたりかき回されたりするのを避けようとするからだ。

だから、距離が近い間柄でしか使わない特定の個人を指す名前を口にした直後に、多くの人に共通する名字を被せて特別な関係があることを隠そうとする。

特別な関係がないはずの二人が下の名前で相手を表現したときは、ただの知り合いでないことがその瞬間に確定するときだ。

よって、対象となる異性を「名」で呼ぶか「姓」で呼ぶかで、まったく情報がない中でもその二人がどんな関係にあるかはだいたい絞り込むことができてしまうのである。

会話中に特別な関係にあるはずのない異性を「名」で呼んでいるのを確認したときは、その二人は知り合い程度の関係で収まっていない可能性が高いと思っていいだろう。

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